あれは私が中学三年生の夏休みの出来事だ。
私が部活だろうがなんだろうが、毎年長期休みになると泊りがけでやってくる年下の従姉妹が居た。
彼女はどうも学校で浮いているらしく足しげく我が家へやって来る。
そんな長い滞在も私が中学を卒業したらおしまいと決まった中学最後の夏休み。
盆も終わり何時もの静かな村に戻った頃だった。
その日はそろそろ私の登校日も近いので宿題をある程度しあげるついでに従姉妹に夏の友をやらせ。数学のワークは出来たものの英語の残りが遅遅として進まなくなった私は宿題やろう、の言い出しっぺだったが昼食後川へ従姉妹を誘い出した。
学校指定の遊泳所に着いた頃は夏らしい空色の上天気。お盆期間になるとやって来るようになったキャンパーのゴムボートも居らず、私たちは他の子供らに混じって川遊びや岩から飛び込みなど満喫していた。
今日は15時まであそべるかなぁ、なんて話を川原で一緒になった同級生と喋っていた時、上流の山手で鈍い音がこだまして響き渡る。
「あれ、雷ー?」
子どもたちが騒ぎ出す。
雷が怖いのもあるけれども、遊泳所の決まりで雨が降らなくとも雷がなり始めたら川から上がって帰る、と言うものがあったからだ。途中で遊びが打ち切りになるのは現在と違い娯楽の少ない子どもにとってはあまり面白くはない。
「わー、ヤラシイな。よぅ見たら入道雲が西の山にもあるやん。あと5分くらい遊んだら片付けて皆上がるよー!!」
岩の影で監視していた小学生の保護者がハンドマイクで叫ぶ。
私は従姉妹と顔を見合わせて、仕方ないよねぇ。と肩をすくませた後に岩から川へ飛び込んだ。
帰り道は散々。
帰り支度をはじめたのとほぼ同時に大粒の生暖かい水が弾け、横断する道はあっという間に水たまりを作る。
走ってきた自家用車はバスタオルを頭から被った集団の横を気にすることなく通り抜けて水溜まりを跳ね上げた。
お陰でそこに居た一団は泥水を被ることになる。
「あんの車腹立ったなぁー!」
風呂場で叫ぶ従姉妹の声がデカイ。
町の家で会うと同一人物かと思うくらい声が小さくて、私は喋る度に口を塞がれるのに。余程腹が立ったのだろう。
「腹たっても、ナンバー覚えとらんとしゃあないやら!」
私は横の洗い場の洗濯機で自分と彼女の水着が水の中をマグロのようにグルグル泳ぐのを眺めて居た。昔の二槽式の洗濯機で多分気がついた時から同じ場所にコレは居る。変な事をまた考えそうになった私は、洗濯カゴを手に取って風呂場の方へヒョイと顔を出した。
そこで体と視線が固まった。
ソレは何時からそこにいたのだろうか
ボサボサの切りっぱなしのショートカット
白い後ろの首の付け根の襟ぐりにボタンのついた綿生地の半袖シャツ
スカイブルーのランニングパンツ
学校指定の白いスニーカー
風呂場の壁はコンクリートで小綺麗に白く塗られていた。風呂場と洗濯場の間には昔の馬屋の名残の空間があり出入口にいるであろう従姉妹の姿は微妙に分からない。
その風呂場の入り口の前に。
人形のソレが立っているのだ。
今日アタシが来ている服とおんなじ服を着てるアタシみたいなのがなんで従姉妹と話してんの?
全ての止まったものを切り裂くように、ソレの向こう側に立つ従姉妹の開けた口から悲鳴か何かの叫びが放たれた。
─と、同時にソレは風呂場の向こう側─。
我が家から道路へ通じる赤道へ飛び降りた。背を向けたまま。
「お前何や!!アタシと同じ格好しやがって!!」
張り付いて動かないと思っていた舌は意外とスルスルと言葉を吐いた。
私はごく自然に風呂場の横から道へ、弾けるように顔を出す。
ソレは既に75m近く先の角を曲がりかけて居た。
─ソレ追ったら不味いんじゃ?
頭を掠めるものがあったものの、私は自分とほぼ同じ姿をしたソレを追いかけようとゴム草履の足で猛ダッシュする。
何時もならそうかからないその角が嫌に遠く感じた。
ダッシュしてる筈なのに足が空回りしている気がする。
角を曲がった向こうに隠れる所はないから
今ならわかる、胃のあたりからザワザワと登り来るものが悪寒だと言うことが。
いつ曲がれるか分からなかったのに唐突に角を曲がれた。
突然吹っ切れたように唐突に。
先には誰もいない広場が広がり、ポツンと佇む焼却炉から薄く煙がたなびいて居るだけだった。
END
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お久しぶりです投稿から日にちが空いてしまいました( ̄▽ ̄;)
色んなSNSでガーデニングのことを呟いているのでちょいと趣向を変えてみました。
こ涼しくなったら幸いです。
ちなみにこれはノンフィクションです……(ΦωΦ)フフフ…