ビジネスだけを考えるのであれば、おそらく英語や中国語を勉強するのが一番なのかもしれない。
ただ、イタリア通訳という仕事をすればするほど、言葉というものは人間らしさを表現するものであって、単なる記号ではないのだと感じる。そして、イタリア語通訳という仕事の面白さに気づかされる。
国の文化・歴史、人間性が反映されたもの。イタリア語も同じだ。
通訳をしていて、いつも困るのが日本語の ”お疲れ様” だ。
日本では頻繁に使われる言葉だが、イタリアでは仕事が終わった後、このような形で他人をいたわることはあまりしない。その代りに”ありがとう”などと直接感謝の言葉を述べる。
この”お疲れ様”一つをとってみても、日本とイタリア語では表現の仕方、気持ちの伝え方が異なる。そして、”お疲れ様”には、日本人らしい、"自分よりも先に他人をいたわる気持ち"が現れている。
変わって、イタリアはというと・・・・。
話し好きのイタリア人。とにかく話が長い。
そして、その長〜い話からは、表現力豊かで会話を楽しむ、その瞬間を楽しむ、人生を楽しむという気持ちが伝わってくる。
仕事上、色々な地域のイタリア人と知り合うことが多いのだが、これはナポリの靴メーカーのおじさんの話である。依頼していた靴サンプルを持ってきて下さった時におじさんはこう言ったのである。
「お待ちしてました。約束したとおりサンプルをお持ちしました。」
と、ここまでは良し。そして、
「このサンプルは、朝露のまだついた捥ぎたてのレモンのように最高にフレッシュなものです!」
「???」
これを訳すると、 "たった今出来上がったばかりのサンプルです" になる。
それをどう訳すか。
もちろん、お客さんにわかるように訳すのが一番だが、これでは、このナポリのおじさんの人柄もほこりも台無しになってしまうし、なによりも味気ない。
このおじさんは、
「君のことちゃんと忘れてなかったよ〜。君は特別だからここまでがんばったんだよ〜」
という思いが組み込まれている。
そこまでではなくても、せめてこのイタリア人の人柄やユーモアはお仕事をしているお客様にも理解していただきたいし、なにかそこで感じていただきたい。
これが人間の人となりを含めた気持ちを伝える仕事だと心の隅っこで思っている。
言葉を伝えるということは本当に難しいことだと思う。
AをAと伝えてもAと伝わらないし、AをNと伝えたら限りなくAと伝わることもあるし・・・。
と、そんなことを思いながらイタリアで日々を綴ったブログです。